年越しの料理 ―餃子―

今では一年中食べられる餃子ですが、本来は大晦日に食べる風習があります。夜中の12時が「子ねの刻」呼ばれていた時代、大晦日の「子ねの刻」は「更歳交子」つまり「旧年と新年が子の刻で交わる」年越しの大切な時間でした。そこでこの「更歳交子」に食べるギョウザを「餃子」と書くようになりました。つまり餃子は旧年中に包んで準備し、さあ新年が明けたという時に食べる年越しの食べ物なのです。またこの餃子の中に氷砂糖やピーナッツ、銀貨などを入れて、砂糖に当たると「生活が甘い蜜のように安楽なものであるように」、ピーナッツに当たると「長生果(ピーナッツの別名)にちなんで健康長寿であるように」、銀貨に当たれば「お金にこまらない」などと縁起をかついでにぎやかに団欒するのが中国北部の年越し行事です。

日本の年越しと言えば「年越し蕎麦」ですが、やはり中国でも中華ソバを食べる地方も有るとのこと。所によっては餃子入りの中華ソバを作り、「金絲穿元宝」(銀貨に金糸を通す)という縁起をかついだと言われます。日本風に言えば「大判小判ザックザク」といったところでしょうか。中国の餃子は水餃子なので早い話が「ワンタンメン」に近い料理を想像すればよいのですが、「ワンタンメン」と「大判小判ザックザク」のイメージはわれわれ日本人には連想できないものです。しかし考えてみれば日本のおせち料理もかなり強引な語呂合わせや外国人には想像できない日本人のイメージで作られているので、まあお互い様と言うところでしょう。

日本の除夜は鐘の音を聞きながら一年を振り返って、来年もよい一年であるように願うしみじみとしたものです。テレビも「紅白歌合戦」が終わると急に「行く年来る年」に切り替わって祈る人々の姿が映し出され、何か神妙な気持ちにさせられます。最近はカウントダウンで大騒ぎするようですが、中国では昔から爆竹をけたたましく鳴らして、日本の大騒ぎをはるかに超えた大迫力で新年を祝います。伝説によると太古の昔大晦日に「年獣」という怪獣が現れて町を襲った事から、この「年獣」を追い払うために爆竹を鳴らしたとか。そういえば日本でも旧暦の大晦日「節分」に鬼退治をするので爆竹と由来は同じことになります。日本の大晦日はやはり年越し蕎麦でなければ感じが出ませんが、節分には肉料理を一つ加えて、餃子で祝ってみてはどうでしょうか!

No.34 年越しの料理 ―年糕―

餃子で年越しをするのは中国北部の風習だそうで、中国南部では「年糕」を食べる習慣があるようです。「年糕」とは日本の餅に似たもので、「糕」と「高」の音が同じであることから「年年高」(年々生活が豊かになる)という語呂をかつぎ、縁起物とされる訳です。「年糕」の作り方は、うるち米にもち米を少し加えて水に浸し、これをひき臼で挽いてドロドロの状態にしたものを一度蒸し、軽く搗いて木型に入れ形を整えます。このようにして作った「年糕」は神々に供えて年越しの神事に用い、また元旦には祖先への供え物や年始の贈答品として贈り合うとの事。日本の餅と違ってうるち米が主となるので柔らかく、薄く切ってスープに入れたり肉や野菜と炒めて食べたりします。中国は昔から「北麺南飯」という言葉があるように、北部は小麦を中心とした雑穀食文化、南部は稲作を中心とした米食文化に分かれて、それぞれの食文化が独自に発達したため、小麦も米も問題なく手に入る今日でも北部は餃子、南部は「年糕」という習慣が失われる事はありません。

「年糕」の由来には古い伝説があるので紹介しておきましょう。春秋戦国の昔、呉国の重職にあった伍子胥という人物は呉王の乱れた生活ぶりを度々叱責しましたが、聞き入れられる事がなかったため呉国は必ず滅びると感じ、家の者たちに「私の死後、食べる物に困る事があれば城門の下を三尺堀なさい」と言い残したそうです。その予言の通りに呉国はやがて滅び、食糧も尽きた時、家の者たちは遺言を思い出して城門を掘ったところ、その下から普通のレンガとは違った米で出来たレンガを発見したそうです。以来、呉国の領民は毎年正月に米を蒸してレンガの形にしたものを作って食べるようになり、これが「年糕」の始まりと伝えられています。

中国各地にはさまざまな種類の「年糕」があり、真っ白い伸し餅のようなものから、砂糖や棗を入れた甘い「年糕」、大根や肉を加えて塩味に味付けしたもの、形も色もさまざまで、その地方ならではの味が楽しめます。中国南部と日本は同じ米食文化圏として似たような食文化を形作ったので、郷土色豊かな日本の「お雑煮」と同様、中国でも「年糕」の作り方や食べかたに、その土地土地の食習慣が現れているようです。

No.35 中国のおせち料理 ―髪菜蠔豉―

「髪菜蠔豉」とは「髪菜」と呼ばれる材料と「蠔豉」という牡蠣の乾物を蒸し煮にした料理で、「発財好市」(お金儲け商売繁盛)と音が同じことから縁起のよい正月料理とされるものです。「髪菜」は字の通り髪の毛とそっくりの外観で、その姿からはおよそ食べ物には見えませんが、念珠藻という藻の乾燥品です。戻す前はごわごわしていますが水に漬けてから蒸すと滑らかで微かに磯の香りがあり、日本の食材に喩えるなら海苔に近いものと言えるかもしれません。ただしこの「髪菜」は海産物ではなくシルククロード蘭州の特産品で、雨季のゴビ砂漠に生育する特殊な植物です。近年乱獲のせいで採取禁止となってしまいましたが、香港の食料品店ではまだ山のように積まれていますから、当分は中国南部のおせち料理として健在でしょう。また牡蠣の乾物も中国料理では一般的な食材です。これは生牡蠣を一度ボイルしてから天日乾燥して作られ、日本産が高級品とされています。広東料理には欠かせない調味料「蠔油」(オイスターソース)はこの牡蠣の煮汁を煮詰めて作るもので「蠔豉」のいわば副産物ですが、「髪菜蠔豉」は戻した「蠔豉」にオイスターソースなどを加えて調味し、「髪菜」と一緒に蒸してからトロミ付けて仕上げます。「髪菜」のトロリとした舌触り、牡蠣の濃厚な風味、陸の幸と海の幸が出会った素晴らしい料理です。

「髪菜」といい「蠔豉」といい乾物は中国料理には欠かせない食材と言って良いでしょう。また乾物に高級で珍しい食材が多いのも中国料理の特色で、古くは唐の時代、西域からラクダのコブを、インドや東南アジアからは象の鼻を長安に取り寄せて料理し、王侯貴族たちはその珍しさを競い合っていました。また明代ではツバメの巣やフカヒレなどが朝貢品としてもたらされたため、皇帝はこれらの料理をその権力の象徴としてもてはやしました。このように中国料理は世界各地から珍しい食材を乾物として取り寄せ、高級料理として調理して来たのです。この点われわれ日本人は食材の鮮度を大切にするので高級料理として乾物が重視されることはあまり無いといってよいでしょう。

「髪菜」や「蠔豉」はさほど高価な材料ではありませんが、それでも西はゴビ砂漠、東は日本から食材を集めて料理しています。われわれ東京の商売人が酉の市に熊手を買わないと何か縁起が悪い気分になるのと同じように、中国人も正月に商売繁盛を願って「髪菜蠔豉」を食べないではいられないのかも知れません。

No.36 中国のおせち料理 ―年年有余―

「年年有余」とは「年々余裕ができる」という意味で、「余」が「魚」と同じ音なので、魚を丸ごと調理した料理を「年年有余」と呼んでおせち料理に用います。形のまま魚1匹を使用すればどのような料理でも「年年有余」と呼び、魚の種類も調理法も問いません。例えば「紅焼全魚」(魚の醤油煮込み)、「清蒸全魚」(魚の姿蒸し)、「糖醋全魚」(魚の甘酢餡かけ)等々、普段から食べている料理も正月になると「年年有余」と呼んで縁起をかつぐ訳です。ただし、食べ方にはしきたりがあるようです。

『飲食習俗』に載る宋経文氏のエッセイ「従“年年有魚(余)”談起」には中国南方の風俗が記されており、たいへん面白いので紹介したく思います。ある地域では宴席の一番最後に出される魚料理に箸を付けないのが礼儀だとの事。それは魚に「余」の意味があるため「来年に余裕を残す」という気持ちを表すためだとか。またある地域では魚料理をテーブルの中心に置き、宴席の最後まで箸を付けないという風習があり、これも「余裕を残す」という意味だそうです。そういえば王仁湘著『民以食為天』にも、ある農村の宴会に木を彫って作った魚にタレを掛けただけの料理が出される話が載っていました。これも魚料理は余すのがしきたりなので、食べないのなら形だけ魚料理を出そうという考えから来ているのでしょう。魚料理にはこのような意味合いがあるので、中国で魚料理が出てきたらこれらの話を思い出して召し上がってください。

さてその食べかたは?これは自戒なのですが、「1」薦められても箸を付けるのをじっとこらえ、とりあえず辞退して他の人に勧める! おそらく「そうは言わずに、せっかくの料理ですから遠慮せずに箸を付けて下さい」と言われるでしょうが、「2」くれぐれも魚の一番美味しいところを真っ先にガッツクのはやはり我慢して、頭と尾の中間を上品に一口食べる! この際、特に結婚式では頭と尾を切断してしまわないように気を付けるそうで、「分かれる」につながって縁起が悪いとの事。また魚の頭は賓客に向くように出されるため、魚の頭がこちらを向いていたら、やおら乾杯の発声をして感謝の気持ちを伝え、率先して箸を付けないと誰も食べられないのだとか。このように魚料理にはその食べ方にもさまざまな風習があるようですが、我々は外国人なのであまり深く考えず、この遠慮の塊を薦められるままに美味しく一口食べて、さあ皆さんで召し上がれという気持ちを表せば充分ではないでしょうか。

No.37 中国のおせち料理 ―全家福―

「全家福」とは馴染みのある料理で喩えれば「八宝菜」と同じ物で、五目材料の煮込み料理です。材料に特別の決まりはありませんが、肉と海鮮、野菜を組み合わせて材料が偏らないようにするのがポイントです。例えば皮付きバラ肉、鮑、海老、椎茸、ガツ、ブロッコリーというようにバラエティー豊かに彩りよく材料を組み合わせれば、嫁いだ娘たちが孫を連れて実家に帰って来たかのようなにぎやかさ、まさに「全家に福があるように」というおめでたい料理になります。また肉団子ように丸い形の材料を加えると「闔家団圓」(全家が団結する)と料理名が変化し、材料が五種類であれば「五福臨門」(五福が門を訪れる)と名付けられます。日本で「福」と言えば七福神の「七福」と言うことになりますが、「五福」とは儒教の聖典『書経』が言う長寿、裕福、健康、道徳を楽しむ事、天命を全うする事の5つとされています。さすがに聖典だけあって「道徳を楽しむ事」「天命を全うする事」という聖人君主の幸福が加わりますが、これを「長寿」「裕福」「健康」「名誉」「子孫繁栄」に変えれば実感の沸く「五福」となるでしょう。子供や孫たちに囲まれて幸福に暮らせる老後が現代では夢のような理想になってしまいましたが、正月元旦だけでも「五福臨門」でありたいものです。

さて「全家福」や「五福臨門」は五目材料の煮込み料理で「八宝菜」もしかり、中国人は昔からさまざまな材料を混ぜ合わせた料理を好んできました。古くは『礼記』に当時のご馳走である「八珍」の作り方が記されており、その中の「擣珍」という料理は牛、羊、ナレ鹿、鹿、ノロの肉を混ぜ合わせた料理です。また肉の刺身である「膾」も赤身肉と脂身の紅白を細かく切り、混ぜ合わせて作るために肉を表す「月」に混ぜ合わせる「会」を加えて「膾」という文字で表しました。日本人も刺身の盛り合わせは大好きですが、さすがに細かく切って混ぜ合わせるという習慣はありません。ややそれに近い「散らし寿司」があるものの、もともとは余りの材料で作る賄い料理だったとか、刺身や寿司はやはり1つ1つの材料を食べ分けて、その違いを楽しむ料理だと言えましょう。

中国料理は「五味調和」を理想とし、さまざまな味を組み合わせて調和させることを良い料理、美味しい料理とする伝統がありますから、おせち料理の「全家福」にもこれが現れているのでしょう。また親子兄弟といってもそれぞれに個性があり、一致団結しなければ家は繁栄しないので、皆協力し合えという戒めが「全家福」というおせち料理に込められていると言えるかもしれません。

No.38中国のおせち料理 ―大吉大利―

「吉利」は「めでたい」という意味の中国語で、これにそれぞれ大が付くのですから「アーめでたやな、めでたやな」という所でしょう。この「吉」の音が中国語では「鶏」の音に通じ、「利」が「栗」に通じるため、「栗子焼鶏」という料理が「大吉大利」の正月料理ということになります。ただし「焼鶏」と言っても「焼き鳥」のことではなく、「焼」は中国語で「煮る」ことを表し、「栗子焼鶏」は鶏と栗の煮物を指します。日本のおせち料理にも栗はよく使われますが、こちらは臼で栗を搗いて殻を取り去った「搗かち栗」の「かち」を「勝」にあてて縁起をかつぐもので、日本も中国も語呂合わせで大いにめでたがる訳です。また日本ではクチナシの実で色を染め、「栗きんとん」にしてその黄金色をめでるのですが、「栗子焼鶏」は醤油煮込みですから我々から見るとややめでたさが失われますが、中国料理は色ではなく味で勝負ということでご容赦ください。

この味という意味で言えば、中国や台湾、香港で食べる鶏料理は非常に美味しく、牛肉以上に人気もあり格式も高いのが特徴であるように思います。日本にも「名古屋コウチン」「薩摩軍鶏」「日向地鶏」などの高級で美味しい地鶏が有りますが、中国では広東の「三黄鶏」や上海の「九斤黄鶏」、海南島の「文昌鶏」、福建の「河田鶏」などが有名です。これら中国の地鶏は味の美味さもさることながら、皮がしっかりとしてシコシコした噛みごたえがあり、皮の美味しさが一つの魅力になっているように感じます。昔、台湾で食べた「白斬鶏」は今でもその美味しさが忘れられません。これは鶏をボイルしたものをぶつ切りにして前菜にしただけの料理ですが、皮と身の間に旨味がゼリー状に層をなしており、一口食べると皮とゼリーと肉がそれぞれ美味しさを競い合っているかのようで格別な味わいがありました。また広東料理には北京ダックのように鶏の皮に水飴を塗って揚げる「脆皮鶏」という料理があり、これも皮と肉の異なる食感と味を楽しむ鶏料理の1つです。このような素晴らしい鶏を使用すれば「栗子焼鶏」も美味しくないわけが無く、鶏の皮はプリプリして栗はホクホク、旨味の詰まったタレが絡んで、肉は骨からホロッと離れ、正月とは言わず一年中その「吉利」を味わいたい気分になります。

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